自然素材の色選び|カタログ通りにならない「真実」とは
注文住宅やリノベーション、あるいはカフェやサロンの店舗デザインの打ち合わせで、最も悩み、そして完成後に「イメージと違う?」となりやすいのが、建具(ドア)や床の「色決め」です。
カタログや小さな色見本(サンプル)を見て、「このウォルナット色でお願いします」とオーダーする。 頭の中では、ドア全体がその色でピシッと均一に塗られた状態をイメージしますよね。
現代の住宅や一般的なテナント内装で主流となっている「既製品ドア(樹脂シート建具)」であれば、そのイメージは正解です。工場で印刷されたシートは、いつどこで作っても同じ色になります。
しかし、私たちが作る「木製ドア」の世界では、その常識は通用しません。
今回は、ご自宅のリビングドアを探している施主様はもちろん、「お客様がくつろげる空間を作りたい」と考えている店舗オーナー様にも知っていただきたい、「自然素材の色選び」の真実についてお話しします。
森の緑が、決して一色ではないように
少し想像してみてください。 ハイキングで訪れた山の景色や、木漏れ日が差す森の中を。
そこにある「緑」は、絵の具のチューブから出したような単一の色でしょうか? 違いますよね。 太陽を浴びた明るい黄緑、影になった深い緑、枯れ葉が混じった茶色っぽい緑…。 無数の「異なる色」が混じり合っているからこそ、自然の景色は美しく、私たちの心を本能的に癒やしてくれるのです。

「同じ色」を塗っても「同じ」にならない3つの理由
「同じ塗料を使っているのに、どうして見本と違うの?」 そう不安になる前に、知っておいていただきたい無垢材の特性があります。
1. 「樹種」が違えば、発色は変わる
たとえ全く同じ缶に入った(同じ色)自然塗料を使ったとしても、塗る対象となる「樹種(木の種類)」が違えば、仕上がりの色は別物になります。
元々の木肌が赤っぽい木なら、赤みのある茶色に。
白っぽい木なら、明るく淡い発色に。 ベースとなる素材の個性が、そのまま仕上がりの色味に反映されるのです。

2. 「ヴィンテージ仕上げ」の深さが、陰影を作る
さらに奥深いのが、店舗内装でも大人気のヴィンテージ仕上げ(エイジング処理)による色の変化です。 同じ樹種のドアであっても、加工の激しさ(ソフト、ハード、ヘヴィー)によって、色の濃淡が大きく変わります。
傷(ダメージ加工)が多い場所には、塗料がグッと染み込み、色が濃くなります。
平滑な面は、サラッと色が乗り、明るく見えます。
つまり、アンティークな雰囲気を出すために傷を多く入れた「ヘヴィーヴィンテージ仕上げ」ほど、全体の色味は深く、濃い印象になるのです。

3. 一枚のドアの中にも「世界」がある
もっと言えば、たった一枚のドアの中ですら、色は均一ではありません。 木目(もくめ)が詰まっている「硬い部分」は色が入りにくく、柔らかい部分は濃くなる。 部位によって塗料の吸い込み方が違うため、一枚たりとも、機械のように「均一な色」にはなりません。

「均一」に慣れすぎた、現代の空間づくり
今の建物は、住宅も店舗も、工業製品としての「均一な色」で溢れています。 私たちは知らず知らずのうちに、「色が揃っていること=正解」「色ムラ=欠陥」という感覚になり、自然本来の色彩に対する感覚が少し鈍ってしまっているのかもしれません。
だからこそ、ヴィンテージドア仕上げの木製ドアを見た時に、 「あれ? サンプルと少し色が違う?」 「カタログより濃淡が激しいかも?」 と、不安になってしまうのは無理もありません。
でも、どうかそこで「おおらかな気持ち」を持ってみてください。その色のムラ、不揃いな濃淡こそが、自然界にある「ゆらぎ」そのものなのです。

まとめ:「不揃い」を受け入れると、空間はもっと癒やしの場所になる
もし、あなたの家のリビングや、お店のエントランスドアが、のっぺりと均一な一色だったら。 それは「整っている」かもしれませんが、そこに「生命力」や「温かみ」は感じにくいかもしれません。
逆に、光の当たり方で表情を変え、場所によって色が違う木製ドアがあったらどうでしょうか。
ご自宅なら: 帰宅した家族がホッと深呼吸できるような安らぎを。
お店なら: お客様が「なんだか落ち着くね」と長居したくなるような、非日常の癒やしを。
「木製ドアの色味や仕上がりは、おおらかに受け入れてあげる」
その気持ちを持って施主支給でドアを選んだ瞬間、その空間は単なる「箱」から、自然の豊かさを感じる「特別な場所」へと変わります。






